岩手県一関市厳美町の本寺地区は、平安末期に「骨寺村」と呼ばれた中尊寺の荘園だった。
中尊寺には「骨寺村絵図」が伝えられており、現在も周囲の風景は当時のままである。
小高い山に囲まれた盆地。曲がりくねった水路が美しい。不ぞろいな形をした小さな
田んぼ。イグネと呼ばれる屋敷林に囲まれた農家。神社や祠が点在する。
いたるところに中世の面影を残している。
美しい農村風景が各地で失われつつある現在、伝統的な景観が維持されている
数少ない場所として、昨年7月、全国二番目に国の「重要文化的景観」に選定された。
「この地区でも何度か景観の危機があった」と、十数年前から環境保全を目指して
調査してきた國學院大学吉田敏弘教授(歴史地理学)は語る。
農業後継者は効率的な農業のために圃場整備を推進したい。「そりゃあ、ここで米作り
をする人間と学者では考え方は違う」と、厳しい言葉が浴びせられたこともあった。
数多くの話し合いが何年も続けられ、「全国で圃場整備を実施した所でも、農業は厳しい。
ならば同じ道を行くのではなく、この地域の価値ある景観を売り出していこう」。
地元住民自らが、景観保全への道を選択した。
今年8月、世界遺産のイコモスの調査団が骨寺村荘園遺跡を訪れた。
「良好な文化的景観として継承され、絵図との照合も可能。世界的にも比類のない
価値を持つ」との高い評価を受けた。来年7月、中尊寺とともに世界遺産の可否が決まる。
これが実現すると、日本の農村景観として世界遺産登録される最初の事例となる。
日本の伝統的な農村景観を後世に伝えたい。地元では「地域づくり推進協議会」が
設立され、古代米や特産品づくりなど、さまざまな活動が始まった。
都市住民は、何ができるか。観光バスで一巡するようなことは、この村にそぐわない。
「農作業体験をしたり、できる農産物を都会の食卓にのせることで支えてもらいたい」。
吉田さんは、その第一歩として、休耕田を復興し学生とともに「学習田」を始めた。
(佐)